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合理的な時代に「怪異」を求める理由
小野先生は、もともと『ゴーストハント』で知った元「なかよし」幼女です。その後も、『十二国記』よりは『屍鬼』やら『残穢』やらの方向ばかり読んでいたんですが、本作は個人的にその極みといいますか。ホラー組の中でというのはもちろん、個人的な興味関心のポイントとしても大好きな作品です。
目次
あらすじ
新聞記者の平河は、近頃帝都を騒がせている怪人たちの噂を聞きつける。便利屋の万造を相方に怪人たちの調査を始めると、鷹司公爵家のお家騒動が絡んでいた。調査を進めていく間にも、さらなる事件が発生して―ー。
記者の「好奇心」とライターの「構造把握」:ミステリーの中の怪異をどう読み解くか
本作は、人が捜査をするミステリー要素でありながら、容疑者の中に怪異がいるという、なかなかにぶっとんだタイプ。『ゴーストハント』系のような、怪異だからこそ調査というわけではなく、あくまで人の事件だから捜査する。のに、怪異の可能性もあるという厄介さがあります。
ただ、主人公の平河さんが刑事でも探偵でもなくマスコミであることで、それがちょっと緩和されているような気も。刑事はもちろん、探偵でも異能系でない限りは怪異の調査なんて不可能でしょう。記者という、もともと怪異であっても取材したいみたいな要素があるからこそできるというか。そのあたり、上手いなあと思います。
繊細さんが共鳴する「心の夜」:黒衣(くろご)が問いかけるポジティブ至上主義への疑問
地の文は誰視点でもないんですけど、でも語り手とするなら平河さんではなく黒衣さんなんでしょう。冒頭の時点では怪異と名乗ってはいないけれど、でも明らかに人間じゃない感じがプンプンしている黒衣さん。
彼(?)はほかの怪異とはちょっと違うらしいと後に判明するわけですが、とはいえ彼が客観的に怪異について語ったり、登場人物に怪異は危ないような忠告してみたりと、どこかおかしさがあり。狂言回しといいますか。
戯れの怪異
怪異たちは、悪ではなく、あくまで自分たちの気分次第のようで。例えば普段から善行を積んでるような子供は見逃したり。かと思うと、直前に神社へおすがりするような人には容赦がなかったり(これは、後に判明する人間側の防御力の問題もあるかもですが……)。辻斬りとか行為自体が人間にとって悪というのもあるけれど、黒衣さんが人に忠告をするという行為を含めて、基本的に気分屋しかいない。
肯定にも否定にも傾かない黒衣
「人の心はなぜ昼ばかりが好ましいとされるのか」と、人が善系、ポジティブとかそういう側面のみしか見ないことに疑問を呈す黒衣さん。とはいえ、悪やネガティブ系の夜ばかりがいいというわけでなく、時間のように昼と交互にあってもおかしくないというのが持論らしい。
人の心の夜を求めているという黒衣さんですが、それは彼自身が夜のみ肯定というのではなく、人が心の昼ばかり見せるが故なのか。
今に恵まれている平河の不安
振り返ってみると、平河さんは恵まれた立ち位置なのでしょうか。実父に捨てられた経緯とそれに複雑な思いはあるけれど、それだけというか。母親の再婚相手とも、困ったら頼れる関係で、家に帰ってきてもいいし実際何度か帰ってるらしい。鷹司家のドロドロとの対比可能性もあるのでしょうかね。
一方で、平河さんが文明開花に否定・諦観なのは、その実父への嫌悪が原因っぽい。お国のために殉じたらしい父親だそうなので、そんな彼の意思を理解できない平河さんにとっては、父親が命を賭したと言っても過言にはならない文明開化もまた、意味が分からないものになるということなのでしょうか。
否定といっても、反対運動するとかって話ではなく、なんとなく「どうなの?」ってレベルではあるようですが。
怪異を否定して見せる万造
「変な奴らのせいで香具師(自分たち)が一緒くたにされるのは困りもの」
一応のホームズ役というべき万造さん。全部知ってから見返すと、真意はどこにあるのか気になってしょうがないです。変な奴らとは、本当に怪異のことなのかとか(西からの新入りさんたちのことを指している可能性はあるかもですが)。
熙道卿の肖像を見る万造さんのシーンもそうですね。平河さんが見た彼の感慨深さは、果たして維新・開花のものと同じなのか。絶対違いますよね。いや維新のことではあっても、別の意味での偉業ですよね。2500年の積もり積もったモノの満願では、そりゃあ感慨深くもなろうというものですが。
ただ、維新関連では残念そうな「素」を見せてもいて。平河さんには「猥雑なものが好き」と、数多の芸が改革ですたれてしまうことに置き換え……懸念しています。そっちを残念に思う気持ちもあるんですよ本当にとか言われそうでもあるのが怖いです。
とはいえ、怪異自体はずっと否定的な言いまわしの万造さん。なんだったら、怯える平河さんに、論破してまで妖怪なんていねえってのを見せる。高度なナラティブの技法っぽいんですが、当人は本当に何考えてるのか。これもまた彼の気分で、「その時は本当に平河さんを慰めようとしたんです」とか言われる可能性すらあるのが、本作1番の恐怖かもしれません(笑)
そんな怪異否定をちょいちょい挟んでくるのは、黒衣否定要素として読者への刷り込み可能性があるのかどうなのか。
美しき華 闇御前
火炎魔人よりは、こっちの話が多くなっちゃいますね。
現代捜査系になじんだがゆえの違和感
闇御前が、生還した目撃者の変装とは誰も思わないっての、読み返すとすごいなと。男女の性差イメージからか、某泥棒たちレベルの変装技術は存在しないからか、はたまた貴族、身分差、疑いは不敬の問題からか。
バカモン、そいつがル〇ンだ。
おほん。一方で、鞠乃さんがものすごく女の勘を働かせているのが面白くもあり。ただ、この時点ですでに彼女が彼女だとしたら……それでもそこは女の勘なのでしょうか?
鞠乃さんの名推理を聞いたとき、万造さんもその場にいたわけですけれども、どう思ったのか気になります。
万造が真相を悟ったのはいつか
闇御前が直さんのところに現れた時に、黒衣さんが止めに入ってますよね。鞠乃さんを守るためと言われればそうですが、そもそも闇御前を見に来た結果、助ける形になった可能性もあるのかなと。直さんはこの時に闇御前について何かを察していますけれど、黒衣さんも似たようなものだった可能性はあるのかなと。
その後、闇御前は男か女かって問題が出た時に、平河さんが改めて探偵宣言というか、捜査の決意を固めるわけですが、万造さんは反応が薄い。否定というより、何か別のことを考えていて上の空なイメージで。この時も闇御前について考えていて、なんなら平河さんの探偵宣言は、自分の邪魔になるかなるまいか、あるいは闇御前の満願成就を妨げやしないかとか考えていたのかなあと。
静御前と義経
なんとか御前という女性は歴史上に何人かいますが、本作は源平の静御前に端を発する名称で。と思うと、源義経に置いて逝かれてしまった静御前のようにも取れるのがなんともはや。そもそも義経も、兄弟の問題を抱えていた点で因果がなんだか、なんだか。
事件の真相ーー壮絶すぎる思い遣りとその基盤に埋められた呪い
容疑者同士の献身
お家騒動といえば、「自分が家督を」が定番の中、本作は「どちらも相手に家督を譲りたい」騒動。誰かに家督を譲りたいだけなら割とあるけれど、相続候補者同士が互いのためにという秀逸さは、脱帽通り越して禿げます。その上、お家騒動というレベルになるからには、当人同士だけではなくその周囲への対処も必要で。
「相手にほんの少しの瑕疵も残さず家督を与えるためには」自分が犯罪者になり、なおかつ、相手が仕組んだと疑われることすらないレベルの完璧さが求められる。というのを互いに自ら理解して課しているんだから、その時点で両人ともハイスペックなのが解る。手に手を取ってという選択肢は、そもそも相続人が1人という時点でありえないのがしんどいです(周囲からすると、2人が協力し合っても、相続者じゃない方は劣る風に見られる)。
ただ、お二人は若干とらえ方にも違いがあり。
・直:互いが相続に関心がないことを知っていて、常のためにとは思うものの、なんなら後継は三男以下でもいいのでは思考
・常:自分は関心がないからこそ、自分がその座を奪ってしまったからこそ、本来の後継者である兄にと決意
無差別殺人という冷静な狂気
直接の怨恨でもなく行きずりの金銭強盗でもなくしかし快楽主義でもなく、無差別殺人が基本の火炎魔人と闇御前。ただどっちも、上記の動機が動機だけに、狂っていると書いていいのは悩むぐらいの冷静さはあって。闇御前の独白、胸の内っぽいセリフに殺戮の快感の描写こそあれど、そこでも冷静さは失っていない、客観分析の印象が強いです。
よくある嫉妬ではない養母の呪詛
兄弟がそう思うようになったというか、周囲の派閥とかことさら問題を大きくしようとしたきっかけが、2人の義母である女性の呪い。国を傾けようとする…呪術的に傾けようとする夫への復讐のため、一族郎党滅んでしまえとは、やっぱ女の方が怖いという話なのかどうか。
そもそも文明開化とは、古きものを見捨ててしまうことなのかという疑問があり。いかに先代が合理主義であっても、取入れ先の海外にも信仰熱い人だっているでしょうにと思ったら、万造さん曰く、海外でももう力のある術は廃れちゃっているんだそうで。革新がそれ以前の全てを否定するのであれば、古いものたちがわざわざそれに従ってやる道理もないってことなんでしょうか。
先代は別にオカルト憎しってわけではないようなんですけど、否定というより白黒はっきりさせたがる。論より証拠、それこそ科学的説明を求めるタイプだったことが余計に災いした感じでしょうか。そもそも証明しようがない以上、不確かなものとして切り捨てるのが道理という。
平河の迷推理からの万造の名推理
本作の謎解き(?)は、ワトソンが盛大にボケをかましたところでホームズが補足するタイプ。あ、私は本物のワトソン博士が馬鹿じゃないことは知ってますよちゃんと。あくまで比喩ってことで何卒ご容赦を。
ともあれ。平川さんが迷推理をかました時点で、万造さんはある程度分かっていたでしょうに、なぜ止めないのかは、ちょっとツッコミを入れたりしていました。
「じゃあ残りは化け物でしょ」とホームズが言うことの妙
そして万造さんの名推理のターンにおいての衝撃。闇御前と火炎魔人にかかわるもの以外は、本物の怪異によるもの。その方が説明はつくとはいえ、怪異を前提にした推理をするっての平河さんでなくてもびっくりしますわね。万造さんがそういうものだから、何の抵抗も前提常識もなにもないと言われてしまえばそれまでなのですが。
闇の底に潜む者たち
執着という名の純潔:一色に塗りつぶされた「夜の者」たちの魅力
ただ一つのものに塗りつぶされた者
純粋無垢な願いのために
自らそれを成そうと言う意思すら、願いとは別の余計なもの
ただただ願う者
周囲の対立などがあったとはいえ、兄に家督を譲ると明言せず行動も起こさず、それでいて闇御前の凶行は続ける常さんの妙。長く使えた家人よりも、疎遠に暮らす兄のため家人に手をかける。その亡骸に縋るのに嘘はないけれど。
自分を愛してくれる者すら、自分が愛する者のために消す。っての、とんでもないですけど好きです。青い鳥じゃないですけど、幸せはすぐ近くというか、身近な人があなたを思ってるとかあるじゃないですか。私あれ、あんまり好きじゃなくてですね。いやいくら思われてても、自分が求める人に思われてなかったらなんか違うような気がするんですよ。身近に目を向けろは、そもそも誰からも思われてないと感じていた人に向けるならありぐらいで。
無論、求める先がくそ野郎とかで誰が見ても騙されてる、ってんならまた話は変わりますけど、それはとりあえず除外。それこそ今回の常さんの思い先=直さんは違いますし。
本当に強く誰か、あるいは何かを思っているなら、その思っている先にこそ目を向けるべきであり、周囲がどうとかはちょっと方向ずれるのでは……と。なので、極端なほどに塗りつぶされた常さんは悲しいほどに魅力的であり。万造さんが欲しがるのも解ります。……アレのことを分かると言っていいのかはさておき。
万造の戯れと正体
そのまま書くとしたら犯人は常さん(と直さん)で、しかし義母さんが黒幕だったという事件なんですが。義母さんとは別の黒幕っぽく見えてしまうのが万造さん、改め黒衣さんで。義母さん以上に何の仕込みもしてないけれど、常さんの満願成就を見守って、最後の最後で全部かっさらっていく。スマートですよねえ。
そんな黒衣さん、何者なのでしょうか。魑魅魍魎とは異なる存在と言ってますが、輔さんへの対応とかを見るに、異なるっていうか別格、もちろん黒衣さんが格上としてって感じで。そういえば、あちこちの世界ではより強大な怪異=神仏レベルになると、人のありように興味を持つ、人こそ不可解でだから愛しいみたいな価値観の方も少なくはなく。黒衣さんはそんな存在なのかなあとか。
言葉が放つ魔性:人形・鞠乃に宿る「美しさ」という名の呪力
一方で、鞠乃さん改め、少女の人形の正体もまた謎で。黒衣さんが言うには、彼女もまた夜の者であり、その願いは「惚れた相手を一目見たい」。相手と添い遂げるとかは問題にならない、ただただ見たいだけに塗りつぶされた者らしい。
実家について確認済みらしいので、鞠乃さんという女性は実在するようですが、いつから入れ替わったのか、そもそも本物の彼女はどこに?あるいは実家すら仕込み済みの可能性もあるのか。ただ、心中芝居のセリフですら喜々として喋ってしまう彼女は、どこか鞠乃さんのおきゃんに通じる風でもあり、だから入れ替わるのに選ばれたのかもしれませんね。
また、彼女については時折出てくる「匂い立つような美しさ」も魅力で。紙に書いてある文字を読んでいるだけなんですが、言葉は魔力って感じがします。なんか、単に綺麗で済ませられないナニカが潜んでいるような。それこそ魔性か。
文明の衰退と、しぶとく生きる私たちのレジリエンス
常さんは逮捕されてないし、時の帝の崩御で魑魅魍魎はあふれ出し、都は水に沈む。真相が明かされたのに、どこか釈然としない事件の顛末。日本はおろか、世界が呪術的に衰え始めた時代の幕開け。
ただそこでもしぶといというかなんというか、次第に慣れているのが人間で。魑魅魍魎は流行病や強盗と同じと考えれば、対処も同じように用心して生活する。それだけ。輔さんたち陰陽師が奮闘しているっぽいのに、なんだか気楽だなとも。知らないのは無知に近いのでしょうか。俺たちの戦いはここからだエンドに近いですが、そう宣言しているのは輔さんたち一部だけのように感じます。
まとめ
若干(若干?)面白おかしく書いてはいますが、常さんの思いと万造さんの存在に囚われているのは本当で。もともと悪人側の思いとか兄弟ものとかに弱い上、化け物大好きも取られたらもう逃げ場がありませんでした。万造さんは今もなお、夜の者を求め続けているのでしょうか。そんなことを考えながら筆をおきます。
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