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目次
あらすじ:性格も境遇も異なる二人の、静かなる「違国」生活
小説家の高代槙生は、姉の葬式で周囲のやりとりから、姪の朝を引き取ることにした。子供と大人という違いを差し引いても、明らかに価値観の異なる朝との生活は波乱続きで……?一方、朝のほうでも、人見知りであるという叔母との生活には思うところが多く……。
主人公・高代槙生という「境界線」:大人も戸惑い、傷つき、答えを探している
突然天涯孤独になった少女……ではなく引き取った叔母が主人公。
実際はW主人公かな。朝ちゃんもメインではあるんですけど、槙生さんのほうも主体でっての、珍しいかなと。
彼女たち個人個人がどうってより、関係性が主体だからというのもあるかもですが、親を亡くした朝ちゃんのサクセスストーリーとはならないのが本作の魅力というか。
「正義」ではなく「自分のルール」で子供を引き取るということ
善性というより、自分の中のルール、定義から逸脱することの恐れ、周囲の醜さが許容範囲を超えている。
そんな感じでいいのかな。
子供は救われるべきというのも、
子供だった自分はーーーー
が根底にあるのかなとか。
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)的な視点から見る「情報の濁流」と「静寂」
対比の妙:孤独に見える叔母と、誰かといても孤独な姪
これ面白い対比だなと。
槙生さんはそもそも人見知りということもあって、仲間内ってのが少ない。
自身は結婚もしてないし子供もいないしで、傍から見れば孤独といってもおかしくはない。
けれど、朝ちゃんフィルター的には、恋人()もいるし仲間も0じゃないし、仲間には気を許しまくっているしで、かなり充実しているように見える。
一方で朝ちゃんは、学生だからクラスメートに部活の友人にと仲間は多い。エミリちゃんはじめ、ちゃんを気を許せている人もいる。いじめとか孤立してるわけでもない。
でも、自分では「なんかこれじゃない感」を抱えてしまう。
そんな対比。
何言ってるのか分からない違国
・叔母は姪の怒りが分からない
・姪は「叔母がなぜ自分が怒られているのか分からない」ことが分からない
・怒ってる?
・怒ってない
・酷くない?
・酷くない
・悪意がある
・悪意がない
・答えのない問い
・というかなんで答えがないのかわからない
・答えがあるべき問い?
・なんで答えなきゃいけないのか分からない
語彙力が鍛えられる作品……と、この時点でいうのはどうなのかさておき。
分かってあげられるレベルだったらまだ良かったんでしょうが、本当にお互いが相手のことを分かることができないって、なんかやばいを通り越したすごさがありますね。
思考の違国 どこまで考えるどこまで考えない
分からないはまだまだ続いて
・考えること
・考えないこと
・考えすぎること
でもまた差があり。
考えすぎに相当しない考えるだけで済む範囲って、なかなか難しいですよね。私はどっちかというと、この点に関しては槙生さん寄りの考えまくるタイプなので。
加えて、
・考えてないけど印象強く受け取られること
・なんとなくからの影響力
と、口に出した結果、意図してないところでなんか効果を発揮しちゃってるケースが存在するのもまた、考えすぎ派としては困る。予想外だから。
そもそも考えすぎというのは完璧主義に通じていて。
完璧主義というのは、自分だけではなく他者、ひいては世界に対しても完璧を求める主義のことで。
ぶっちゃけると、完璧=最高というよりも、自分という基準からズレが生じることの違和感が解せないことで。
なんなら主義者と完璧な人は違うんですよ。
完璧主義って自分でも言えてしまうのは、むしろ自虐に近いかもしれません。
成長すること悩み続けること
・自分キャラを作ること
・自分キャラに囚われること
・キャラはいつどのシーンで必要?
・常に必要?
・キャラを脱ぐシーンはある?
自分というものを見つめ始めた?朝ちゃんの話の中で。
これ怖いなあと思いました。
ちょっと演技のつもりが、自分そのものになっていて、気づいたら辞められないってのが、周囲のためだけでなく自分自身のためにレベルになっているところ。
さらに
・心を置き去りに体だけが成長する恐怖
朝ちゃんの、ある日突然の爆発=不登校あたりの話で。
行動を起こしたことで、大人への理解というか成長の一歩という風に見える一方で、悩みは完全に尽きたわけではなく。
・悩みも将来も怒りすら誰かに決めて欲しい
むしろ増え続けて、自分のことすらどうにもならない。
自分のことすら他人に決めてほしい。
個人的にも、あるある過ぎてしんどいです。
私の場合は、決める=責任が伴う行為だから嫌だという理由があるとはいえ。
自分のことすら責任持ちたくないです。ええ。
才能とは呪いか祝福か
朝ちゃんの問いに対する槙生さんの答え。
・やめないのが才能
・やめられないから才能
・分かっていても、誰かがなぜやめてしまうのか問わずにはいられない
・自らがやめる時にはーーーー
ある種の呪いと称する槙生さん。ちょっと闇というか、覚悟も見て取れたり。
実際に文句は言わないけれど、才能からのリタイアはだから尊敬している人ほど気になってしまう。
これも、完璧主義に寄るかな。やめられない呪いだと思っていても、なぜそこから離れようとするんだという、自分の基準からの逸脱に対する違和感というか。
考えすぎの不器用すぎる愛情表現
槙生さんは嘘を言えない人。
朝ちゃんが嘘でもいいのにと求めていても言ってくれない人(言ってほしいと気づかないぐらいには言えない人)。
一方で朝ちゃんも、時に嘘を求めながらこの世の全てが嘘だという批判的な感じ方をしているのが、矛盾というか深み。
で、そんな槙生さんの回答の1つが、「生命保険はいりました」は、ギャグなのか、笑えばいいのか。
そりゃあ朝ちゃんも大激怒っていうか、怒りと称していいのかも分からない混乱に陥りますわ。
親が急に事故死っていう、死の恐怖に接した人に、自分のほうが寿命で先に死ぬし、何かあった時のために一応って「死ぬことを前提とした」話をするのがもう。
さすがに槙生さんも、この時ばかりは理解したし後悔はしてましたけれども(それでも保険に加入自体はしましたけれども)。
素直な槙生さんになったかと思えば、好きだけでは言い表せない足りない言葉を尽くしたいってくるのがまた、朝ちゃんにはちょっと重い。
ただの好きでいいのに。ね。
(でも私個人としては、こういう回りくどいかつ、語彙をかき集めて煮込んで干して固めた感じのほうも好きではあるので複雑なところではあります)
叔母と姪を取り巻く違国の皆さん
エミリちゃんとカミングアウト
・あの時言っておけばよかった
・あの時言わなくてよかった
・あれってどんな意味で言った?
・あれってどんな意図で言った?
・なにも考えずに言った
同性愛について考える以前の問題提起というか。
世間的にマイナーなことを誰に相談するか、身内の誰に打ち明けるか、そもそも打ち明けていいのか。
逆に、周囲からすると、その人が何かを抱えていることについて知るべきなのか。
知らずに放った暴言は知らないとしても罪ということなのか。
実里さんという死人はどこで生きているか
・本人は嫌い
・でも彼女に訪れる訪れたあれこれを想像するのには心が痛む
槙生さんの、お姉さんに関する複雑な感情。
お姉さんのことは今でも嫌いだし、この先好きになる可能性も低いけれど。
彼女が生きていたらどうなっていたかを考えることについては話が別という。
お姉さんの娘である朝ちゃんのことは大好きという前提があるからかもですが、それもまた、考えすぎるの一貫なのか、どうなのか。
好きの反対は無関心といいますが、槙生さんの嫌いは、ある種の証左(無関心にはなり切れない感情)なのかなとか。
朝ちゃんは、それは好きじゃんといいますが。
なんというか、例えがあれすぎますけど、復讐者が対象のことを考えるのに近いというか。
復讐者が自分をひどい目に合わせたやつのことを考えるって、それ絶対好きには起因しないじゃないですか。
もっとも、別に槙生さんは、お姉さんに不幸になれと思っているわけではなく(故人だからとはいえ)、想像することも不幸になったお姉さんというわけではないのですが。
ってあたりも、憎しみではなく、嫌いと称するに適している?のかなとか。
お姉さんは、朝ちゃんの中で生きているというより(朝ちゃんの中にもいるんですが)、槙生さんの中でも生きているし、槙生さんの中で死ねていないイメージ。
父親の影と「答えを待つ」ということ:理解できないものをそのまま置く勇気
・朝の父親は「誰」?
・空虚な父
・娘に無気力?無関心?
・事実婚の真意は
・答えを探すこと
・答えを諦めること
・答えを待つこと
血縁が嘘とかではなくて彼は何者なのかと言う意味で……って読んでてもびっくりしますわ。お父さん誰よって。
別に既婚者とかじゃないけど、事実婚がいいんだってのが、唯一見える彼の意思のような気がします。
法的な拘束を拒む人というか、槙生さんに輪をかけて、他というものを拒んでるイメージ。
生まれつきなのか後天的なのか、彼の過去に何があったのか気になりますねえ。
そんなお父さんの実態に迫りつつあった朝ちゃんが出した答えが、言ってしまえば「そのうちわかるだろ」ってことで。
諦めというとあれですが、完全に理解できないものは、いくらこちらから向かって言ってもしょうがないってのは、分かる気がします。
そのうち、自分の変化なのか成長なのか、あるいは単なる加齢であっても、分かる状況になる時がくる。それまで待とう。
大人になったら嫌いな食べ物も食べられるようになったとかって、別に当人が努力したわけじゃなく、気づいたら味覚が変わったというか広がった感じですよね。
人間関係も、そういうことがあるってことなのかなあと。
笠町くんという「優しい他者」:利己的な愛が救いになる瞬間
第三者から見ると、偽悪的な菩薩にしか見えない槙生さんの「友人」。
自分からフッた相手を自分の方から再度求めることはできるかって、槙生さんですら悩むぐらいにはいい人。
それでもいいどころか、それすら自分側の利己と言えるのが笠町さんやべーです。
(笠町さんからすると、無理と思っていたら再チャンスがあるって状況なので、とんだ幸運なのでしょうが。だからこそ、自分のほうが彼女に付け込んでると、正直に言っちゃうのが逆に悪い男だわーと思ったりしないでもなく)
ただ、それだけ槙生さんを求めている、好かれなくても嫌われたくないと言い張るぐらいには。
そんな情熱は、確かに利己であって。しかし純愛でもあって。
塔野弁護士という回答~人間はフィクションに触れずとも生きていけるのか
・フィクションと言う味方
・口八丁ではない弁護士
・自分がある
・自分を探す
・実のない正義
本は人を育てるといいますが、塔野さんは反証であり証左でもあるような人だなと。
弁護士という、ある種成功職といえるような立ち位置にいるので、本なしでも育ってる。ここは反証。
一方で口八丁ができない、共感性がないということを自分でも理解しているほどには機微にかける。ここは本あったほうがよかったのではってことで証左。
彼自身が、ちょっと抜けてる、どじっこに近い属性なのでかわいいなーって済ませられる部分もありますが(それが共感性のなさを補えている点でも、成功者ですな)。
余談:狼の遠吠えが上手い槙生ちゃんさん
どこか近所のわんこから遠吠えのお返事くるっての、なかなかですねと。
ツンデレと片付けてしまうと彼女から言葉足らずの認定されそうですが、懐かない猫っぽい槙生ちゃんさんの仕草はいやされました。
まとめ:私たちはみんな、それぞれの「国」で生きている
なんというか、そういうことなのかなと。
個人の差をこれでもかと敷き詰めていて。
私という読者からしても、朝ちゃんに思うところあれば、かといって槙生ちゃんさんと同一とも言い難い。
そこをどうするか。
あるいは、どうもしなくていいのか。
考えたくないけど、考えなければいけない。
いや、それ自体も勝手な憶測にすぎないのか。
そんなぐるぐるを抱えながら筆をおきます。




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